2013年1月18日金曜日

教材費増額で「理科好き」を増やしてどうなるか.

2013年度予算案の大筋が発表された.内容は今後精査する予定だが,こんな記事が目に飛び込んできた.

理科好きの子ども育成を…教材費の大幅増額検討
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130107-OYT1T00598.htm
記事では,
”「理科好き」の子どもを増やすため、小中学校の実験や観察で使う顕微鏡や人体模型などの教材購入にあてる補助金を大幅に増額する検討に入った。”
と述べている.

果たして,教材費の増額で「理科好き」は増えたとして(それもかなり疑問だが),それによって生まれた「理科好き」は,科学技術創造立国につながるのか.その点について述べたい.

教材が増えるとどうなるか.さまざまな実験器具やセットが増えることで,自由度が上がるように思えるかもしれないが,それは逆.むしろ,科学としての自由度は下がる方向に行く.

科学とは未知なるものへの探求である.未知なるものを発見しようとするときに,誤差のない最新鋭の器材を使用し,教科書通りに実験をすると,まるで教科書に書いたような結果が出る.それがいったい何の役に立つというのだろうか.自由なように見えて,それは答えがほぼ一通りしかない,不自由な活動である.科学は,用意された教材で発見して喜ぶのではなく,発見するためにどういうものを使うか考えるところに意味がある.用意された教材で見られるのは,未知ではなく既知.それは科学ではなく,単なる試験の模範解答にすぎない.

理科を好きにさせる活動として,でんじろう先生を見てみると,どこに高価な実験装置が出てくるだろうか.段ボールとドライアイス.これで十分なのである.

自由研究大賞というのがあるそう.
http://japan.discovery.com/summer/
大賞の研究内容は,
"夏休みの約1ヶ月間、毎日自宅の庭先でボールを数種類落とし、月の満ち欠けとボールの落ちる位置がどう変化するかをまとめた作品。"
聞くだけで感激する内容.これを単なる「理科好き」で片付けて良いのだろうか.

審査員の総評は
”その努力の源は、飽くなき探究心が原動力となって引き起こされたものです。そして、探究心は努力の源だけではなく、研究の楽しさも生じさせます。
努力と楽しさがスパイラルに相互作用し、このような素晴らしい自由研究が完成したのでしょう。
入賞した人も入賞できなかった人も、「自分の知りたいことを楽しみながら研究できた人」は、それだけで大成功なのです。”
まさにその通り.どこにも,彼らが“理科が好き”や“研究が好き”とは書いていない.“飽くなき探究心”と“努力”,そしてそれから生まれる“楽しさ”が優秀な研究を生み出しているのだ.

教材費を増やすことで,確かに理科というものに興味を持つ人間は出るかもしれない.ただし,それはあくまで“これとこれを組み合わせたらこういう結果が出る”という,教科書通りの答えが出る理科が好きな人間だ.“理科を好きになってもらうのが第一歩”と言うのは見当違い.実際の科学は,疑問を持つ→仮説を立てる→検証するための手法を考える→実験→結果→考察といった,ある意味面倒な課程を経る必要がある.理科が好きになったからと言って,このような思考が身につくわけではないし,いわんや教科書通りの実験をや.

こういう思考を持った人間を育てるのに,“理科”や“理系”というくくりはかなりの障害となる.最も論理的に成り立つものは数学.新たな発想を生む観点を身につけるためには,想像力や読解力ももちろん必要.文学的素養も必要となる.そういった,全人教育が必要となる.そこを読み間違えると,“理科好き”を増やすことで,“理科が苦手”な人間を大量生産することにもなりかねない.

フィンランドの教育内容を,この前NHKでやっていた.
http://www.nhk.or.jp/ichiban/backnumber/b09/index.html
もとは詰め込み教育だったフィンランドが,現在どのような教育を実施しているか.要点は,自分で考えさせることおよび全員正解であった.こういった子供たちが,その成長過程の中で「理科好き」になったとしたら?日本がこれから作ろうとしている「理科好き」と戦ったときに,どうなるだろうか.結果は明白.失敗を恐れず,自分で考える力を持った人間にかなうわけがない.これでは,科学技術創造立国にはほど遠い.

日本でも当たり前のようにこれと同じことを試みている.言わずとしれた「ゆとり教育」である.思想自体は全く間違っていないと思っているが,具体策がまずかった.あとは,現場発信ではなかったこと.それが問題.結局,授業時間を削るだけの施策になってしまった.「教師が悪い」とか問題ではなく,お上の浮き世離れした命令ありきだったところが問題.

では何をどうするべきか,まで言及したいのではあるが,それを語り出すと話がだいぶ明後日の方向に飛んでしまうので,今日はこのへんで.

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